絵本作家インタビュー:元永定正さん
元永定正さんインタビュー
「純粋に面白いものを作りたい。その一所懸命なところに、子どもは心を動かしてくれるんやないかなあ」
── 元永さんの作品を見るたびに思うことなのですが、絵と文章、どちらが先に生まれるのでしょうか?
「『もこもこもこ』はどちらが先というのは、ようわからん。ニューヨークで同じマンションに住んでた頃のことが、谷川さんの頭にあったんやろうね。当時、やっていたことの延長で本が出来たようなものやから。『もけらもけら』は、絵が先です。文は誰が良いかなぁと考えていたら、編集者が山下洋輔さんを推薦してくれて」
── 小さな子どもたちが、元永さんの絵本に夢中になる秘密をぜひ知りたいと思うのですが。
「わからんよねえ、不思議ですねえ。子どもに喜んでもらえるのは嬉しいですよ。理屈抜きで面白いと判断してくれるんだから。絵本って、どうなってるんやろね。僕は絵に子どもも大人もないと思って描いてる。自分の頭の中に浮かんでくるものを、形にしていく。純粋に面白いものを作りたい。その一所懸命なところに、子どもは心を動かしてくれるんやないかなあ。
僕は1955年から関西で活動していた『具体美術協会』に参加して、『見たことのないもの作ろう』と、そればっかり考えて、当時では作品とは言われないような作品を作ってました。新聞でも文化部ではなく、社会部が取材に来てましたよ。ビニール袋に水を入れてぶら下げたら『水の彫刻』と言われたり。白髪一雄さんは、足で絵を描いた。その頃と精神は変わらないんです。絵本も同じ気持ちで作っている」
── 元永さんの作品は声に出して読んでいると、大人もとても楽しめます。
「そう? 最初の頃、僕の抽象画の絵本は、親からの抗議の手紙も多かったらしい。『変な本出すな』って。ある図書館の館長が新聞に『図書館で購入しようかどうか迷った』って書いたこともあった。それ読んだときは“やった”と思ったね。新しいものは、変なもの。不安も生む。だから抵抗がおきるんやね。非難があったということは、動きがあったということ。新しい時間の動きが生まれると、またそこから、いろんなことが起きてくる。それが、面白い」
── 絵本の依頼を受けるときのポイントはありますか?
「型にはまったものはダメやね。僕はいつも、誰もやったことのないものを作ろうとしている。妥協はない。絵本のことを考えてたら、新しい絵本は生まれてこない。新しいアートはいつも、アートの世界の外からやってくるように」
── 大学やカルチャーセンターで抽象画を教えていらっしゃるそうですが、どんな授業なんでしょう?
「大学では最初の授業は“わけのわからないように描きましょう”ということから始めます。絵は、心の表現やから。線でも丸でも好きなように、出来るだけたくさん描いてもらいます。描き続けたら何かが出て来るんじゃないかな。駄作でも何でも、たくさん描かないと傑作は生まれないから。なんて言ってたら、カルチャーセンターの生徒で1ヶ月で100号を180枚も持って来る生徒がいた。よくやる若い女の子やなあと思ってたら、一番上に16歳の娘がいる3人の子持ちやった。主婦は強いな。皆、自由な気持ちを持ち続けてほしい。変なことをやりながら。人間はすべて天才よ。その天才を見つけるにはどうしたらええか。好きなことを続けることです。カルチャーセンターの生徒で81歳の女性が、このまえニューヨークで個展やったら全部売れた。面白かったら買ってくれるニューヨークは良い所です。油断も隙もない。先生とか生徒とか関係ない。自然の中の決まりで作品が生まれて来る」
── 子どもに絵を教えることはありますか?
「めちゃめちゃお絵描きとか言うて、ワークショップをやることがあります。壁にも床にも真っ白な紙を貼りめぐらせて、大きな帚を筆代わりにしたり、水鉄砲に絵の具をいれて壁めがけてうったり。子どもたちは、心が解放されるとすごい。『こんなんお絵描きちゃう! 戦争や!』ていう子がいました。そういう子たちとの出会いも、僕の絵に影響を与えてくれているのかもしれん。実際は“張り切りすぎて怪我するなよ”とか、いろいろ心配しながら見守っているんやけどね」
── 子どもと両親に、元永さんの絵本をどんなふうに楽しんでほしいですか。
「最近の僕の講演のタイトルは『私の絵本も現代美術』というんやけど。どこへ行っても、僕の絵本を皆知ってくれているので驚くんです。家庭にアートを浸透させる力が、絵本にはある。ある時、10人くらいが、『もこもこもこ』を朗読しながら、それぞれ勝手に動くという舞台があって、面白かったなあ。言葉がアクションとなって出て来る。みんな違うけど、確かにみんな“もこもこ”で。家庭の中でも、その家なりの“もこもこ”があるんやろね。それを親子で面白がってくれたらええなあ」
元永定正(もとなが・さだまさ)
1922年、三重県に生まれる。1955年「具体美術協会」に参加。以来、退会までの16年間の全展覧会に出品。具体美術の代表的作家として、絵本、絵画、オブジェ、インスタレーション、パフォーマンス、舞台美術、阪神淡路大震災のためのモニュメントなど、ジャンルを越えて、国際的に活動。成安造形大学で客員教授として教鞭を採るほか、カルチャーセンターや子どものためのワークショップの講師も務めた。
※ このインタビューは、『baby mammoth』第2号(2005年)に掲載されたものです。2011年10月にご逝去されましたことを、謹んでお悔やみ申しあげますとともに、心からご冥福をお祈りいたします。
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●元永定正さんの絵本●
『がちゃがちゃ どんどん』(福音館書店)
元永定正 作
耳から聞こえるいろんな音をカタチにしたら、どんな絵が生まれる……? この絵本に描かれた単純でカラフルな絵が、その答え。にぎやかで幸せな世界を読み進むうちに、大人も思わずノってしまう、アートな一冊。
『ころころころ』(福音館書店)
元永定正 作
「ころころころ かいだんみち」「あかいみち ころころころ」など、カラフルな小さな色玉の列が「ころころ…」と軽快に転がりながら、さまざまな世界を冒険する。独特の元永ワールドが広がる可愛い作品。
『もけら もけら』(福音館書店)
山下洋輔 文、元永定正 絵、中辻悦子 構成
ジャズ・ピアニストの山下洋輔氏とのコラボレーション。「ぱたら ぺたら」「しゃばた しゃばた しゃばた ぱたさ」などのリズミカルな音と、目に見えない音のカタチを彷彿させる、コミカルな絵が楽しい。