大きな宇宙の営みのなかの自分を感じる|星川淳(作家・翻訳家/グリーンピース・ジャパン事務局長)
「夕暮れどき、沈みゆく太陽に『今日も一日ありがとう。また明日会いましょう』とあいさつするときの気持ちを想像してみてほしい。それが平和です」。手つかずの自然が残る屋久島で二十七年間暮らしてきた星川淳さん。「平和」とは、自分が生きていること、明日があると信じられること、大きな自然の営みのなかの自分を感じられること__そんな穏やかで揺るぎのない思いだと言います。
「Nature(自然)」はもともとラテン語で「生まれる」という意味。人間もここから始まりました。つまり人間は自然と区別されたものでなく一体なのです。「その本質を体感すれば、自分を大切にし、自然を大切にし、そして他者の命も尊重する想像力が生まれる。だから人間界と自然界、どちらかがおかしくなったら平和ではないのです」。
いじめをはじめとした子どもたちを取り巻く問題は「大人の社会が多様性を認めず、コミュニケーションが取れないことから起こる」と星川さん。「まず大人自身が失った心のなかの平和を取り戻す必要があるのかもしれません」。
─ Q1. いまの日本は平和だと思いますか?
Yes & Noです。戦争をしていない、戦争で亡くなる人がいないという表面的な意味では平和。しかし、1年間に3万人という、大きな戦争と同じくらいの数の人が自殺したり、派遣切りといった雇用問題で生活に困る人が多くいることは、けっして平和的な状態ではありません。また、沖縄の米軍基地移設で海の埋め立てが計画されるなど、自分たちの命を支える自然を平気で壊す人も大勢います。私たちは「本当に平和なのか」という問いかけをつねにしていかないといけません。
─ Q2. 「平和でない」とはどんなことでしょうか?
やはり戦争です。最近ではイラク戦争。そこに突き進んだ当時のブッシュ米政権には憤りを感じますし、それを支持した日本も同罪です。第二次世界大戦での広島、長崎の被爆も代表的な「平和でない」ことがらでしょう。なぜ日本は戦争へと進んでいったのか、その経験を後の世代にきちんと残す必要性を感じます。日本人は「和」を重んじるあまり本音で話しあいをせず、集団でものごとを決めるのが苦手。ひとりひとりが自分の頭で考え、生きかたを貫く、その勇気をもてば、過ちは繰り返されないはずです。
─ Q3. 平和な世界をつくるためになにが必要だと考えますか?
自然と触れることです。とくに子どもたちにはなるべく人の手の入らない自然にふれる体験をしてほしい。ヒントになるのが米国先住民の成人の儀式。子どもがある年齢になると、荒野にたったひとりで3日3晩過ごさせます。圧倒的な孤独を感じ、自分と外界の区別もつかなくなるとき体験するもの、自然から聞いた声は、その後生きていくうえで大きな指針になるそうです。もちろん同じことはできせんが、自然とぴたっとくっつく体験は、現代の日本人が暮らしていくうえで倫理的、道義的、また環境面でも大切なものがつかめるといえるのではないでしょうか。
星川淳 ほしかわ じゅん
作家・翻訳家/グリーンピース・ジャパン事務局長
1952年、東京生まれ。20代前半、内面的な自己を追求するためインドに滞在。その後、持続可能な社会の実現に向けて地球科学などを米国で学び、米国先住民ともふれあう。1982年より屋久島在住。環境や平和問題に積極的に関与し著訳書多数。おもな著書に『魂の民主主義』(築地書館)『屋久島水讃歌』(南日本新聞社)、共著に坂本龍一監修『非戦』(幻冬舎)など。星川さんの著書のなかでも、2008年に開催された「9条世界会議」の際に出版された『イマジン9』は、親子で読んでほしい一冊。
※このインタビューは、マンモス19号「平和をつくろう!」(2009年9月発行)に掲載されています。
» What’s Peace?平和をつくろう!|Mammoth School