見えないものを感じる力|鈴木理策 写真家|JAPON interview 3
写真を始めたころは、アメリカの写真に影響を受け、その風景を作品化しようと思っていたのですが、広大な大地を車でまわっているうちに自分の感覚がわからなくなることもありました。日本に戻って、実家の熊野で撮影をしようと思い立ったんです。撮影して改めて感じたのは、熊野が豊かな水と多様な自然に恵まれた土地であるということ。この場所なら森羅万象に神様が宿るという発想が生まれるだろうと納得し、幼いころ、祖母が自然に対する感謝を当たり前に表していたことが理解できました。熊野には滝や岩を信仰対象とするところが多く残っていて、自然に対して敬意を示すという根源的な信仰のなりたちを思いださせてくれる場所なんです。
私は風景の写真を撮るとき、絵をつくるという感覚ではなく、「自分がここにいる」ことを写真にしたいと思っています。例えば、山を歩いて風景が変わったと感じたとき、そこで最初に目に止まったところにピントを合わせて、構図はほとんど成り行きでシャッターを切る。こうすることで、生き物として身を守るために感覚した要素が写真映像に表れると思うのです。私にとって写真は、単なる絵づくりではなく、自然と自分との関係をまなざす行為です。
なにかを得ようと意識的に自然を見るのではなく、ただ自然のなかに身を置いてみる。そうすることで、日本人が古くから培ってきた自然観、そこから生まれた思想を感じることができるのではないでしょうか。
鈴木理策 すずき・りさく
1963年、和歌山県生まれ。東京藝術大学美術学部先端表現科准教授。時間や記憶、場所の気配など、視覚に収まらない感覚を主題とする作品を発表。9月に最新作品集『White』(edition nord)を刊行。http://www.risakusuzuki.com/
鈴木理策グループ展
11月11日(日)まで、ワタリウム美術館にて開催されているグループ展「歴史の天使」に鈴木理策さんが参加しています。
参加作家/クリスチャン・ボルタンスキー/チン↑ポム/アレン・ギンズバーグ/ロバート・フランク/鈴木理策
詳細はこちらをご覧ください。
→ http://www.watarium.co.jp/exhibition/1208angel/1208index.html