チンパンジーと人間との 違いは想像するちから|松沢哲郎 ・動物心理学者、霊長類学者
「猿」をテーマにしたmammoth “Monkey”特集インタビュー。第1回は、チンパンジーの知性について研究している、動物心理学者、霊長類学者の松沢哲郎さんにお話を伺いました。
なぜチンパンジーの研究をするのか。この問いの答えは、チンパンジーを知ることが人間をより深く知るひとつの方法だからです。たとえば、日本という国を深く知るのには、日本史を調べる、地理を学ぶ、社会システムを知る……。さまざまな方法があるでしょう。しかし、もっと簡単な方法は外国に行くことですね。外国に行き、外から日本を見れば、どういう国かすぐわかる。これと同じように「人間とはなにか?」という問いを立てられたとき、人間に近いチンパンジーという「アウトグループ(よそもの)」を知れば、人間がより深く理解できます。
地球に住む数千万種類の生命のなかで、いちばん人間に近いのがチンパンジーであるというのが、21世紀の人類が到達した理解です。ヒトゲノムが2003年に、チンパンジーゲノムも2005年に解読されました。これによって両者のゲノム塩基配列が98.8%同じだとわかった。新しい人間観が生まれるなかで、いちばん重要なアウトグループがチンパンジーなんですね。
その人間とあまり変わらないチンパンジーと、私たちはどこが違うのか。人間の特徴は「想像する」ということです。チンパンジーは未来を想像しないから絶望はしませんが、人間は容易に絶望する。でも、絶望するのと同じ能力の「未来を想像するちから」があるから、人間は希望をもてる。私たちは必ず死にます。だけど、自暴自棄にはならない。「毎日をよりよく生きよう」と思うのが人間で、そう思い、希望をもつように進化してきたのです。
松沢哲郎 まつざわ・てつろう
1950年、愛媛県生まれ。1978年より「アイ・プロジェクト」と呼ばれるチンパンジーの知性の研究を開始。研究を通じて、人間の心や行動の進化的起源を探る「比較認知科学」と呼ばれる新しい研究領域を開拓した。
mammoth No.26「MONKEY」(2013年3月15日発行)
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