からだのふしぎを伝えたい
もっとも身近な存在でありながら、よく考えてみると「からだ」のことって意外と知らない。からだはなぜ動くの?それぞれの臓器はどこにあるの?どうして泣いたり笑ったりするの? マンモスの「からだ特集」(18号)では、子どものからだや成長についてくわしい、小児科医の山田真先生にからだのふしぎについて伺いました。以下は山田先生のお話です。
からだのふしぎを伝えたい
人間ってふしぎです。人間のからだもまたふしぎのかたまりだとぼくは思っています。
四十年も医者の仕事をしてきて、毎日沢山の人のからだを見てきているのに、今でも「人間のからだはふしぎだなあ」「からだってこんなにうまくできているんだ」と驚いたり感動したりしている毎日です。この驚きや感動を子どもたちにも伝えたいというのがぼくの願いです。
診療室にいて子どもたちを見ていると、多くの子どもたちがからだに興味を持っていることがわかります。診療机の前にレントゲン写真がぶらさげてあると「あれなーに?」「どこの写真をとったの?」と質問攻めをしてきます。「あ、胸の写真だ」と得意そうに言う子もいます。
血圧計大好きという子も沢山います。どういうわけか男の子が多いのですが。来院のたびにゴム球を押しまくって、腕に巻く布の部分をパンパンにふくらませて帰る子も少なくありません。「これ、なにするもの?」とお母さんに聞く子もいます。お母さんは「血圧を測るものよ」とまでは答えられますが、重ねて「血圧ってなに?」と聞かれると困っています。そうするとぼくの方にむかって「血圧って?」と聞きますが、これはなかなか医者のぼくでもこたえにくいのです。「大人になったら測るようになるから今は知らなくていいの」などとごまかしますが、時間があったらじっくり説明してやりたいなと思います。
十年ほど前、小学二年生用の国語の教科書に「おへそってなあに」という文章を書きおろしたことがあります。この文章は子どもたちにかなり人気があったようで、あちこちから手紙をもらいました。しかし、教科書にのせる文章というものはいろいろな制約(何字以内とか、小学二年生で使える漢字には制限があるとか)があって、自分ではあまり満足できる文章ではなかったのです。その不満を解消するため、ぼくはからだを題材にした子ども向けの絵本を何冊か書いてきました。書きながらも、やはりしょっちゅう、からだのふしぎに心を動かされています。
昨年は初孫に恵まれたので、赤ちゃんの成長ぶりを日々目にして驚いたり感動したりしていますが、あらたに「なぜ?」と疑問がわいたりします。例えばしゃっくりです。赤ちゃんがよくしゃっくりをするのは知っていましたが、「どうして赤ちゃんはよくしゃっくりをするのか」は知りませんでした。
そして考えてみるとそもそも「しゃっくりはなぜ出るのか」ということもぼくは知らなかったのです。医学辞典を見ると「横隔膜や助間筋などの呼吸に関わる筋肉がけいれんして急速な吸気が起り一瞬遅れて声門が閉鎖される現象」と説明されていますが、どうして突然筋肉のけいれんが始まるのかについては書かれていません。ぼくの知っている人で一週間くらいしゃっくりが続いていろいろな治療をしたけれど止まらなかった人がいます。結局そのしゃっくりは自然に止まったのですが、どうして始まったのか、どうして止まったのかもわからないままでした。
こんなふうにぼくたちはからだについて知らないことがいっぱいあります。大人でも知らないことは沢山あって「膵臓ってどのあたりにあるか指でさして下さい」と云われてもさせない人は多いでしょう。食道と気管どちらがからだの前の方にありますかと問われて「気管が前!」と即座にこたえられますか。
幸い今は親子でからだの勉強をするのに役立つ本も出ています。『好きになる解剖学』(竹内修二著・講談社)もその一つで、ぼくはこの本で新しい知識を得ました。みなさんもこうした本を使って親子でからだの勉強をしてみてはどうでしょうか。
山田真 やまだまこと
小児科医。1941年、岐阜県美濃市生まれ。三人の子どもをもつ父親。1986年以降、八王子中央診療所に勤務。東京都西東京市にある「梅村子ども診療所」でも子どもたちの診察をおこなう。著書に『はじめてであう小児科の本』『子育て・楽天主義』、絵本『おねしょの名人』『きゅうきゅうばこ』、共著に『育育児典』などがある。