睡眠は生き抜くための最高の戦略|脳科学者・井上昌次郎
生き物は、活動と休息をリズミックにくりかえさないことには生命維持できません。連続運転できないのです。そのために昼夜や潮汐など地球のリズム、いわば外部環境に同調させる必要がありました。そして、生命体が高等になるほど、情報を管理して制御するメカニズムを自らに備えるようになり、内部環境をもコントロールする必要が出てきます。つまり、脳というハイテクでデリケートな装置をうまく管理しなければならない。睡眠は、これらに大きく関係しているわけです。大脳が発達し、中枢神経系のウエイトが高い生き物ほど、生命維持に大事な役割を果している。単純にいえば、睡眠は最高の生存戦略なのです。
規則をつくり、社会を動かす力が強くなるほど、睡眠は枠にはまってきます。民族や遺伝を超えて、社会が睡眠にプレッシャーをかけてくるのです。だから我々の眠りというのは相当、人為的に加工されています。でも睡眠は、単に無駄な時間だとか、減らしたほうが得だとかっていうような問題ではなく、大事にしないと命がもたないほど重要なもの。それになかなか気づけないのは、肝心のそういうことをわかる脳が、何も知らないようにさせられるから。だって、それが睡眠だからね(笑)。昨今は眠りが大事という認識が高まってはきたものの、眠らないとうまくいかないという結果論からきているだけで、本質が理解されているわけではないですね。睡眠こそが命を支えている事実をみんなが知れば、もう少し世の中は平和になると思います。
井上昌次郎 いのうえ・しょうじろう
1935年、ソウル市生まれ。東京大学大学院生物系研究科博士課程修了。理学博士。東京医科歯科大学教授を経て、同大学名誉教授。元世界睡眠学会連合理事。著書に『ヒトはなぜ眠るのか』『眠る秘訣』など多数。
※ mammoth No.31 SLEEP Issue 収録