「冬眠能力」は人間も開花できる!?|薬学博士・近藤宣昭
睡眠と冬眠は、似て非なるもの。睡眠に関係する概日リズムは全細胞に備わったシステムですが、冬眠に関係する概年リズムは個々の細胞に備わってはいませんから、根本的に違います。また、冬眠とひと口にいっても、動物によってその形質が全然違うんです。カエルなどの変温動物は冷たくすると冬眠しますが、恒温動物は体温を下げると死んでしまいます。
シマリスをとおして冬眠研究を長年してきてわかったのは、1年周期のリズムをもとに冬眠特異的タンパク質(HP)を体内で増減させることにより、冬眠現象が起きるということ。彼らは冬眠するための特殊な肉体をもっているわけではなかった。これは人間も冬眠できる可能性、いわば「冬眠能力」をもちあわせていることを示唆しています。人間もシマリスと同じパーツでできているんだから、あとはこの働きを調整できるようになればいい。
冬眠のメリットは、不老長寿。病気にかかりにくく、かつ若さを保ったまま長生きするということです。冬眠時には心拍数が落ち、それに伴いエネルギー消費もかなり落ちます。個体を長期維持させるための省エネ行為ですね。コンピュータにもスリープという機能があるけど、「睡眠」で満足してないで「冬眠」状態をつくってやれば、もっと長持ちするでしょうね。
冬眠能力を高めるには、1年のリズムを体が知ること。我々の潜在能力を衰退させないことです。だから僕も季節に敏感でいられるよう、夏でもクーラーつけずにがんばってます(笑)。
近藤宣昭 こんどう・のりあき
1950年、愛媛県生まれ。東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。冬眠特異的タンパク質(HP)を発見、冬眠研究の第一人者となる。著書に『冬眠の謎を解く』など。
※ mammoth No.31 SLEEP Issue 収録