手はいちばんの道具 木版を摺るときの感覚|木版画家・彦坂木版工房|HANDS Interview
『mammoth』32号の特集は「HANDS/手」。本誌の巻頭インタビューでは、木版画家・彦坂木版工房さんにお話を伺いました。木版画を通して感じる手の力とは?
— 子どものころに一度は体験したことがある木版画。彫刻刀やバレンと言った名前をご存知の方も多いでしょう。シルクスクリーンや銅版画などいろいろな版画がありますが、木版画はもっともその中でも歴史があり、代表的なものに”浮世絵”があります。
その木版画の魅力を現代の人たちに伝えるため、私たちはパンや野菜といった身近な食べ物を木版画にして、イラストレーターや絵本作家として活動をしています。
「木版でパンを描く」と聞いてどんな絵だろう?と想像がつかないかもしれませんが、私たちは木版の特徴である、色ムラや、木目の模様を、パンの焼き目に見立てて描いています。たとえばバゲットの固くパリッとした表情は、わざと木目をしっかり出す。また、食パンは色ムラを意識してつくると、ふっくらとした仕上がりになります。
これらの模様は絵具と水の量、そして何と言ってもバレンで摺るときの力の強弱で決まります。木目を出すコツは、水の量を少し減らし、バレンで手から全身の力を込めて摺ることです。力が足りないと木目がうっすらとしか付かず、固そうなバケットにはなりません。
木版画は、版木の上から和紙をかぶせているので、絵を確認するときには「手」の感覚だけが頼りとなります。今どれくらいできているかを「手」で判断して、ちょうどいいと思ったところで手を止めます。和紙をめくって、美味しそうなパンが仕上がっていると、格別な喜びがあります。何年やってもこの瞬間は本当に楽しいものです。–
彦坂木版工房(ひこさか もくはん こうぼう)
2010年に彦坂有紀ともりといずみが始めた木版工房。木版画作品の展示や、ワークショップ、彦坂木版学校をとおして木版画の普及活動を行っている。著書に『YASAI BOOK』、『パンどうぞ』(講談社)など。http://www.hicohan.com/
※このインタビューは mammoth No.32「HANDS」特集に掲載されています。