手から生み出される パン生地は自分の分身|パン職人・勝見淳平|HANDS Interview
『mammoth』no.32の特集は「HANDS/手」。本誌の巻頭インタビューでは、パン職人・勝見淳平さんにお話を伺いました。パン作りを通して感じる手の力とは?
— パン生地をいつからこね始めたのかは、もう思い出せません。母親がパン教室をやっていたので、物心ついたときには、もうパン生地に触っていたような気がします。だけどそんな記憶は忘れていて、でも気づいたら自分もパンをつくるようになっていました。
パン生地は生きものです。パンは小麦粉と水と塩、酵母菌からできていて、それを手でこねることで酵母のなかの生態系と自分の手の菌が一体化する。発酵を促すためには糖分や酸素などのエサがなければならなくて、人の手でそういう環境をつくり出さなきゃならない。そんなふうにして菌の世界と僕らの世界がつながっていると思い始めたのは、数年前です。僕らは菌に囲まれて暮らしているし、人間の体は菌でできているし、菌に操られているともいえる。
パン生地をこねていると、どこまでが生地でどこからが自分なのかがわからなくなる。まるで自分と生地が一体化していくような、そんな感覚になることがあります。全身の力を使って、手を伝わってパン生地に命が吹き込まれていくのです。だから、生地をこねる人やその人の精神状態によって全然違うものが焼き上がります。
生地をこねているときは、実際に計測したわけではないけれど、脳内でアルファ波が出ているような、すごく心が安定していい気持ちになります。ただたんに瞑想をしているときよりも、パンをこねながらのほうが瞑想状態になれるというか。逆に心が乱れていると、パンも乱れてしまいます。体と心、手と心は直結していると思い知らされますね。–
勝見淳平(かつみ・じゅんぺい)
1974年、鎌倉生まれ。2006年、鎌倉農協連即売所内にパン屋&カフェ〈パラダイス・アレイ〉を開店。2012年にはパンの製造工場〈B&B〉をヨロッコビールの吉瀬明生と共同で開設。
※このインタビューは mammoth No.32「HANDS」特集に掲載されています。