見えない壁を自分の手で乗り越える|視覚障害クライマー・小林幸一郎|HANDS Interview
『mammoth』no.32の特集は「HANDS/手」。本誌の巻頭インタビューでは、視覚障害クライマー・小林幸一郎さんにお話を伺いました。クライミングを通して感じる手の力とは?
— 初めてフリークライミングと出会ったのは、高校2年生のときでした。運動が苦手で、球技はもっと苦手、走るのも遅くて。勝ち負けが重要とされるスポーツを楽しいと思ったことはありませんでした。中学、高校と部活にも所属せず、でも何か夢中になれるものを見つけたいと思っていたときに、偶然、雑誌の「フリークライミングを始めよう!」の文字が目に入ったのです。
もちろん初めてなので、岩壁に登るのも怖いし、最初は全然登ることができません。でも、自分の「手」で前に進んでいる確かな感触があって、文字どおり手応えを掴んだのです。登山家は頂上を足下にするといいますが、クライミングの場合は頂点を本当に「手中」にする。そんなわかりやすい達成感が、クライミングにハマった理由です。
クライミングは自己達成型のスポーツです。誰かと競うことなく、比べられることもなく、自分自身と向き合って壁を乗り越えていきます。
クライミングをするときの手の感覚は、目が見えていたときも目が見えなくなってからも、そんなに変わっていないような気がします。目が見えていたとしても、岩角の向こう側を探るときには目ではなく手が頼りになるからです。この場所が掴めるかどうか、というホールド感は目で見えていても確かなものではなく、手で触ってみて直感的に感じるのです。
現在は視覚に障害がある方と一緒にクライミングをしていますが、最高齢の方は86歳。皆さんそれぞれの壁に、ご自身の手で立ち向かっています。–
小林幸一郎(こばやし・こういちろう)
1968年、東京生まれ。28歳のときに「網膜色素変性症」という目の難病が発覚。その後、2005年に障害者クライミングを普及するNPO法人モンキーマジックを設立。http://www.monkeymagic.or.jp/
※このインタビューは mammoth No.32「HANDS」特集に掲載されています。