編む毛糸のなかに感情が吸い込まれる|編みもの作家・三國万里子|HANDS Interview
『mammoth』no.32の特集は「HANDS/手」。本誌の巻頭インタビューでは、編みもの作家・三國万里子さんにお話を伺いました。編みものを通して感じる手の力とは?
— 祖母が部屋で編みものをしている姿をよく見ていました。大人の女性がやることと同じことをやってみたいと思ったのが最初ですね、3歳くらいだったと思います。かぎ針を使ってひたすらこま編みをしたのですが、同じ目数のまま編み続けると筒状に立ち上がる。糸を編んでいくと立体ができ上がるというのがおもしろかった。最初につくったのは、家族全員分の箸袋です。
小学生のころは手芸雑誌を見ながら、いろいろつくっていました。もう少し大きくなると、古着が好きになって、いいなと思うセーターを買ってきてはどういうふうに編まれているかを見て、同じようにつくってみたり。そんな感じで、いいなと思ったものは、とにかく手を動かしてつくってみる、編みものはすべて独学で学んでいきました。
手だけではありませんが、体を動かしながら何かをつくることはなんでも好きでした。今は編みものは仕事になってしまいましたが、料理も洗濯も家事全般(掃除以外)が好きですね。とくに、集中して編みものをしているときは、うまく言葉にはできませんが、なんとも言えない快感があります。
編みものをしているときって、毛糸と一緒に感情が吸い込まれていってしまう、そんな感覚があります。震災後のあるとき、心が落ち着かないという夫はセーター1枚を編んで「いい時間だった」と言っていました。どういう仕組みになっているのかはわかりません。でも、時間をかけて手を動かしながらモノをつくり上げる。そこに浄化作用みたいなものがあるのだと思います。–
三國万里子(みくに・まりこ)
1971年、新潟生まれ。幼いころから編みものが好き。独学で洋書などから編みかたを学ぶ。著書に『きょうの編みもの』、『アラン、ロンドン、フェアアイル 編みもの修学旅行』などがある。
※このインタビューは mammoth No.32「HANDS」特集に掲載されています。