内田也哉子さんインタビュー My Mothering Style

ママになるということは、大きな幸せであり、新しい発見であると同時に、もどかしさや戸惑い、怒りなど、複雑な感情を絶えず伴う、大変なことでもあります。ここでは、mammothが考える「ママになってより素敵になった人」を迎え、自分なりのママ・スタイルや、ママになるということを通して考えること、思うことについて話してもらいました。第一回は、内田也哉子さんです。<『baby mammoth』No.1 (2005年) 掲載>
—— 也哉子さんは、一人の人間としての自分のペースをきちんと守りながら、二人の子どものママ業をこなしているように感じます。その、也哉子さんならではのママ・スタイルについて、うかがいたいと思います。
「ライフスタイルって、振り返って初めてカタチになってた、というもので、毎日、それこそひと呼吸ずつ変わっていくものだと思うんです。子どもが生まれたからには、一生付き合ってくしかないし、ずっとお世話しなきゃいけない。そういう忙しさを振り返ってみて、最近になってようやく『いろんな道にそれたけど、今歩いてる道も結構良いなぁ』って思えるようになった。その中で、自分の育児について、今唯一言えることは、自分の悪い所を正直に見せられる関係でいる、ということかな。人間なんだから、いいところも悪い所もあるということを見せないと、理想ばかりが膨らんでしまう。自分が思い描く母親像を演じることは出来るかもしれないけれど、それじゃ本当の部分で子どもと付き合っていけないから。叱ったり伝えたりする時も、自分も成長過程の一人の人間として話すと、すごくよく分かってくれるのに、『あなたは子どもだから』みたいに言うことで、どんどん距離ができてしまうもの」
—— 子どもを育てる忙しさの中で、也哉子さんなりの息の抜き方ってどんなものでしょう?
「私が一番喜びとしてることは、人と出会うことなんです。文章を書くことも、人との出会いから偶然始まったこと。私にとって、その書くということが気持ちの切り替えかな。エッセイって、日常から溢れ出たものやこぼれちゃったものを書くわけだから、日常とまったく別のものというわけじゃない。一枚の紙の裏と表というか。この生活があるからこそ、書くことも出来るんです」
—— でも、子どもがいると、例えば、マニュキュア塗る時間もないとか、諦めなきゃいけないことだらけのような気分になって、すごく落ちこむこともありますよね。
「私もやっぱり瀬戸際でした。怒濤のような現実に、考える隙もないくらい、なんとかしがみついて来たという感じ。今になってやっと、その流れに浮かべるようになったっていうか。もともと私は自分にあまり時間をかけないから、女の人が諦めなきゃいけないものが幸いなかった。でも、それとは別のところで、妄想とか夢とか、自分が抱いていたものがどんどん違うということが分かってきて、その折り合いをどうつけていくかっていう、心の葛藤が大きかった」
—— 現実と向き合うことで、ひとつひとつ、理解していった?
「そう。気づくためには、本当に繰り返し何度もその問題にぶつかって、傷ついて、落ち込んで、また起き上がって……。未だに、同じことを何度もしてるなって思います。私、大きな夢ってないんだけど、目標はある。家族それぞれが、今日が終わっていかにハッピーに過ごせたか、ってこと。家族になったからには、お互いに、重く言えば責任がある。でも、思いやる人がいて、それが唯一の支えだったりもする。存在そのものが、思いやりの始まり。そういうのを時々確認していきたい。日々の瞬間の積み重ねや、みんなで共有してきたものが、記憶の中に残っていく……なかなか難しいけど、細やかなことを実らせていきたいですね」
うちだ・ややこ
文筆家、絵本や映画の翻訳、バンドsigh boart(サイボート)の作詞・ヴォーカルなど、多彩な才能を発揮する2児のママ。著書『ブローチ』(リトルモア社)は、記憶の海をゆっくり泳いでいるような感覚さえ覚える、繊細で美しい大人の絵本。sigh boart デビューアルバム『combo piano』(イーストワークス)。
※ この記事は『baby mammoth』No.1 (2005年) に掲載されています。
撮影:大森克己 取材:baby mammoth 編集部