二酸化炭素に苦しむ ヒト、海、地球|篠宮龍三(プロフリーダイバー)
フリーダイビングは、心地よさと苦しさが交じりあう競技。僕にいろいろなことを学ばせてくれます。深くまで潜って水面に上がってい くとき。吸いこまれるように水面に近づいていって、フィンを動かさなくても心地よく加速していく感覚は、陸上では味わえません。水面の向こうには太陽の光がキラキラと輝いていて、なんともいえない喜びに包まれるんです。反面、深く潜っていくには当然、長い時間、息を止めていなくてはなりません。つまり、脳が「苦しい」 と感じることになるのです。
人間が息をこらえるということは、 体内に取りこんだ酸素を消費していくということを意味します。これは 同時に、身体が二酸化炭素を放出するということでもある。そして人間の脳は、酸素が減っていくことではなく、二酸化炭素が増えることに対し「苦しい」という信号を出す。この現象は身体のなかで起こっていることですが、僕はふと、地球環境にも似ているなと感じたんです。
フリーダイビングでは、限られた体内の酸素を大切に使っていかなければならない。人間は、地球上の限られた資源を大切に使っていく必要性に迫られています。内部で放出される二酸化炭素に「苦しい」と感じる僕の身体も、温暖化に苦しむ地球の姿と重なります。
人間の身体は無理をすれば、いつか支障をきたしてしまう。海はもちろん、自然環境にも同じことがいえると、僕は感じているんです。
篠宮龍三 しのみや・りゅうぞう
プロフリーダイバー。 2010年には、バハマで水深115mの記録を樹立。 今年11月の世界大会では世界新記録の124mを超 えるべく、現在、沖縄でトレーニングをおこなっている。近著に『心のスイッチ』(竹書房)がある。
このインタビューは、『mammoth』24号「Our Ocean 命をつなぐ ひとつの海」に掲載されています。text: Hiroshi Utsunomiya artwork: Nobuko Yuki