サルの写真から考える「かわいい」の向こう側 |松成由起子 写真家
動物写真家は一般的に「すごい!」と思えるようなシャッターチャンスをとらえるものと思われますが、私は日常の何気ない光景を撮るのが好きです。 愛知県にある東山動物園でサルを撮りはじめ、サルに興味を持つようになり、温泉に入る「スノーモンキー」で有名な長野県の地獄谷野猿公苑に通うようになりました。そのうち公苑にやってくるサルたちが、周りの山に住んでいることを知り、山中でも撮影するうちに公苑とは違った表情を見せるサルにますます魅了されるようになりました。そんな写真を見せると、かわいいだけじゃなく、猿害などの現実問題を撮ったらどうかと言われることがある。だけど、私はサルが好きで撮っている。子どもをかわいいと思う気持ちと同じです。「かわいい」は「大事にしたい」「守りたい」につながる気持ち。「サルってこんな表情をするのか、うちの赤ん坊と同じだな」という思いが前提にあれば、サルとヒトは互いにいい方向性を探せるはず。敵になるより、向こう側のことを考えて、守っていけるのではないでしょうか。
サルの子育てを見ていると、かわいがるだけではなく、イライラしたり、子どもの世話に疲れたのか、お母さんがぼんやりしたりしている瞬間がある。でも、子どもが危険な目に遭いそうになると、血相変えて飛んでくる。ちゃんと子育てをしているんですね。サルは、お母さんと子どものつながりが深くて、人間に近い存在。これからもサルをとおして母と子のつながりや、子育てを見つづけていきたいです。
松成由起子 まつなり・ゆきこ
愛知県生まれ。子どものころより動物とともに育つ。アフリカで野生の動物たちの姿を見て感動し、写真家を志す。写真集『森の人 オランウータン』(青菁社)、絵本『ぼくはさるのこ』(学習研究社)などがある。
mammoth No.26「MONKEY」(2013年3月15日発行)掲載
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