七十二候は気づきのきっかけ|暦特集インタビュー・詩人 白井明大さん
「暦」をテーマにしたmammoth “暦”特集のショートインタビュー。第3回は、詩人の白井明大さんにお話を伺いました。
-七十二候は気づきのきっかけ-
いちばん好きな季節は、年末年始にかけての「雪下(せつか)麦を出(い)だす」。雪の下で麦が伸びてくる季節で正月が始まるんですよ。ぶ厚い雪が積もっていたとしても、そこに次の芽が出てくるんだっていう年の始まりって、励まされる感じがして、いまの時代としてもいい。雪、下、麦、出っていう字の並びも好きで、読む楽しみもありますね。
暑い盛りでも、8月に入ると夕方にスーッと涼しい風が入ってくるようになる。それを「涼風至る」と言いますが、そう名づけられる前には体感があったと思うんです。実際に身のまわりに起きている微細なことを、(特定の言葉には絞りたくないのですが)ありがとう、いただきます、美しい、といった願いや感謝として表現した素朴な感性です。自然に対する信じる気持ちと、自然から恵みを受けとる感謝の気持ちがセットになっている。
植物にしても、生き物にしても、人にしても、兆しであったり、ありのままの姿だったりが、見ていけば見ていくほどにくっきり見えてくる瞬間がある。鮮やかに心を打たれたりするようなことが、しょっちゅう起きている。それを思いださせてくれるきっかけとして、七十二候があるのかもしれません。いまの暮らしをしていると、そんな気がするんです。昔は営みのなかで、農事暦として必要だったと思うんですね。僕らはいまや、これを生活の必需品としては使うことは少ないと思いますけど、僕らにとっては、思いだしの、気づきのきっかけみたいなものになってくるだろうと思っています。
白井明大 しらい・あけひろ
1970年、東京都生まれ。沖縄在住。暮らしに寄り添いながら詩を書いている。詩集に『心を縫う』『くさまくら』『歌』『島ぬ恋』、他の著書に『日本の七十二候を楽しむ – 旧暦のある暮らし- 』がある。www.mumeisyousetu.com
mammoth No.27「CALENDAR」(2013年9月15日発行)収録