タップは言語 情熱や感情を表現する|タップダンサー・熊谷和徳
世界中に活動の場を広げ、さまざまなアーティストとセッションをしながらタップを進化させる、タップダンサー・熊谷和徳さん。『mammoth』DANCE特集では熊谷さんのインタビューを掲載しています。
– 5歳のときマイケル・ジャクソンの『スリラー』の映像を見たのがダンスとの出会い。圧倒的なエネルギーを感じて、見よう見まねで踊っていました。中学生のときに『タップ』という映画で、グレゴリー・ハインズのタップを見て、自分のなかで探していた表現に近いものを感じて習いはじめました。初めてタップシューズを履いたとき、音が鳴った瞬間に気持ちよくなって、まるで魔法の靴を手に入れたようでした。
踊りがからだや精神に与える影響ってあると思います。大学受験のためにタップを辞めざるを得ない状況になったとき、好きなことを抑えつけられたためか喘息が悪化しました。これはいけないと思い、タップへと戻ったら体調は改善しました。浄化作用があるのでしょう。自分にとってそれはダンスでしたが、本当に自分の好きなことだったら誰でも同じだと思います。
タップって会話のリズムのようで、言語に近い。日常的に太鼓を打ち鳴らして、それに合わせて踊るアフリカの人々の生活と密接に結びついていた。そのルーツをたどっていくと、感情や情熱を表現する手段のひとつでもあるので、タップを踏むときは「なにを伝えるか」がいちばん大事。このことは高校卒業後に暮らしたニューヨークで「マスター」と呼ばれるタップダンサーたちから学びました。人生をかけた彼らの踊りには、シンプルな美しさがあった。踊るということは精神やからだのためであるとともに、シンプルに生きることにつながっている。彼らの踊りからは、それが伝わってきたのです。-
熊谷和徳(くまがい・かずのり)
15歳でタップを始め、19歳で渡米。ニューヨーク大学に通いながらタップを学ぶ。現在は世界中に活動の場を広げ、さまざまなアーティストとセッションをしながら、唯一無比なアートとしてタップを進化させる。
» mammoth no.29 DANCE Issue